工業簿記における仕訳
工業簿記の目的は、商品の原価を求めることです。そのため、簿記試験では原価計算が中心となりますが、仕入れた材料がどのように商品となり、出荷され原価になるか、商業簿記のような仕訳も大事です。
材料購入時の仕訳 借方勘定は『材料』を用います
ここでは、本棚を製造している山形株式会社を例として、ある月の原価計算を考えてみましょう。
材料 | 500,000 | 現金 | 500,000 |
製造に用いる材料を購入した時の仕訳です。
ここでは「現金で購入した」とあるので、貸方には現金勘定が入ります。また、後払いの場合は「買掛金」を用います。
借方の勘定ですが、製造のための材料を購入したので、「仕入」ではなく「材料」という勘定を用います。
材料副費について
仕訳の際に、材料副費が加算されることがあります。
買入手数料や保管料などを材料副費と呼びますが、材料を購入した際に、想定される材料副費をあらかじめ予定配賦することがあります。これを材料副費の予定配賦と呼びます。
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商品の製造で消費したものは、仕掛品と製造間接費に分けて考える
便宜上、他に使用した材料は無いものとする。
仕掛品 | 400,000 | 材料 | 500,000 | |
製造間接費 | 100,000 |
原価計算を行う際には、「この材料は、何のために使われたのか」が重要となります。
そして、材料を消費した際に、消費した商品を特定できるものを「仕掛品」、特定できないものを「製造間接費」として仕訳を行います。
問題文では、「400kgは製品本体の製造に用い、100kgは補修用として使用した」と書かれています。ここから、『400kgは本体製造のための直接材料費として、100kgは商品には用いられたがどこに使われたかを特定できない間接材料費』として使われたと判断します。
ただし、仕訳では直接材料費や間接材料費といった言葉ではなく、仕掛品、製造間接費という勘定項目で仕訳を行います。
便宜上、未払い分は無いものとする。
仕掛品 | 250,000 | 賃金 | 300,000 | |
製造間接費 | 50,000 |
労務費に関しても、材料と同様に「その商品の製造に関わったか、もしくは明確に判断できない労務に携わったか」で分けます。
例えば、本棚の製造に関わった人の人件費は、商品の製造に直接関わったとして計算できますし、材料の運搬にあたった人の人件費は、どの商品に対してどれだけかかったか、この時点では正しく計算できません。そこで、直接商品に関わった人の労務費は直接労務費、間接的に関わった人の労務費は間接労務費として計算します。
ただし、材料と同じように、労務費も仕掛品・製造間接費という勘定科目で仕訳を行います。
山形株式会社では、本棚の飾りのため、150,000円の装飾用パーツを現金で仕入れた。また、水道光熱費として、40,000円を現金で支払った。
仕掛品 | 150,000 | 現金 | 190,000 | |
製造間接費 | 40,000 |
そして、経費に関しても、直接経費と間接経費が存在します。
直接経費は、今回の問題のような装飾用のパーツや塗装といった、その商品にどれだけの費用がかかっているのかをはっきりさせられるものを指し、間接経費とは、水道光熱費や事務員の給与など、どの商品にかかったのかが不明な経費が該当します。
また、仕訳に関しても、材料費、労務費同様、仕掛品・製造間接費という勘定科目で仕訳を行います。
製造間接費を配賦する。今月、山形株式会社では20架の本棚を製造し、製造間接費は製造数に応じて配賦する。
間接材料費:100,000 + 間接労務費:50,000 + 間接経費:40,000 = 190,000
190,000 ÷ 20 = 9,500/架
次に、製造間接費の配賦を行います。
上で述べたように、どの商品にどれだけ使用したかが不明な経費を製造間接費と呼びますが、最終的にはそれらの経費も製造費として考えます。
そして、その製造間接費の配賦に関して、色々な方法がありますが、ここでは製造数に応じてとあるので、間接費を合計し製造数で割った9,500円が、一架あたりの製造間接費となります。
さて、工業簿記において直接、その商品に対して使用した費用を仕掛品、どの商品かわからないものを製造間接費として仕訳を行いました。ですが、どちらの勘定も結局は商品の製造に使用されたので、最終的には製造間接費も仕掛品として仕訳を行います。
そして、完成した商品を仕掛品から製品へと振り替えます。
山形株式会社は、製造した商品を製品に振り替えた。
仕掛品 | 190,000 | 製造間接費 | 190,000 |
製品 | 990,000 | 仕掛品 | 990,000 |
先ほど、完成した商品を製品に振り替えましたが、これらはまだ販売されておらず、いわば倉庫にある状態です。そして、この製品が売られると倉庫から製品がなくなるので、改めて仕訳を行う必要があります。
山形株式会社は、990,000円分の製品を売却した。
売上原価 | 990,000 | 製品 | 990,000 |
ここで商業簿記とは異なる注意点があります。商業簿記では、商品を売り上げた際に「売上」という勘定科目を用いますが、工業簿記では「売上原価」という勘定科目となります。
なぜなら、工場で製造した商品を売る場合、必ず利益を乗せます。そして、工場から出荷された商品には利益が乗せられていないので、原価と受け取った金額が合わないという状態となります。
ですので、この仕訳では「売上原価」という勘定を用います。